中国・アジア

国際金融都市シンガポールの社債市場振興策
―社債発行補助金制度を中心に―

北野 陽平

要約

  1. シンガポールでは近年、社債市場の発展に向けた取り組みが強化されている。同国は、これまでも社債発行で資金調達を行うアジア企業と国際的な投資家を結びつけるゲートウェイの役割を果たしてきたが、域内企業の資金調達ニーズが高まる中、社債市場のさらなる発展が必要と認識している。そうした中、シンガポール金融管理局(MAS)は、社債発行を促進するための様々な補助金制度を相次いで導入してきた。
  2. MASは2017年1月、発行体の裾野拡大を目的として、アジア債券補助金スキームを導入した。一定の要件を満たすアジア企業は、社債発行費用の50%を補助金として受け取ることができた。その効果もあり、2017~2019年における初回債の発行額は2014~2016年から倍増した。当初、同スキームは2019年末が期限であったが、2020年1月以降もグローバル・アジア債券補助金スキームとして継続された。新たなスキームの下では、補助金の要件が緩和されるとともに、上限額が引き上げられた。
  3. MASは、発行体の資金調達ニーズに柔軟に対応するため、債券の種類の多様化も促進している。国連の持続可能な開発目標(SDGs)等を背景として、グリーンボンドが注目される中、MASは2017年6月にグリーンボンド補助金スキームを導入し、2019年2月にはソーシャルボンド及びサステナビリティボンドにも対象を広げた。また、MASは2018年1月、保険分野の域内ハブになるという目標の一環として、CATボンド(大災害債券)等を対象とする保険リンク証券(ILS)補助金スキームを導入した。
  4. シンガポールの社債市場の投資家は機関投資家が中心的だが、MASは、一般個人投資家の参加促進策も講じており、リテール債の発行や社債の格付け取得を促すための枠組み及び補助金を導入した。今後、同国が、社債市場のさらなる発展を通じて資金調達ハブとしての存在感を高め、アジアを代表するグローバル金融センターとして、一層の地位向上を図ることができるか注目されよう。