特集2:中国におけるカーボンニュートラルの進展

中国の2060年カーボンニュートラル実現に向けた金融支援策
-市場メカニズムの活用による排出量削減に向けて-

関根 栄一

要約

  1. 2020年9月、中国の習近平国家主席は、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指すと表明した。2021年からの第14次5カ年計画でも低炭素化プロジェクト等を支援するため、「グリーンファイナンス(緑色金融)を大きく発展させる」方針を明記した。
  2. グリーンファイナンスの強化に向けては、2020年10月に中国人民銀行等5部門が「気候変動対応投融資の促進に関する指導意見」を公布した。また、同行としては、資源配分、リスク管理、市場によるプライシングの各機能によって、(1)グリーンファイナンスの標準体系の整備、(2)強制的開示制度の導入、(3)金融機関へのインセンティブ制度の導入、(4)グリーン金融商品・サービスの強化、(5)国際協力の推進、を進めていく方針である。
  3. グリーンファイナンスに関する具体的支援策の動きとしては、第一に「グリーンボンド支援プロジェクト目録」の修正版が2021年4月に公布され、化石エネルギーのクリーン利用に関するプロジェクトが外され、資金使途が国際標準に近づいたこと、第二に銀行のグリーンファイナンス業務への評価基準が2021年7月から適用されたこと、第三に全国統一の排出権取引市場が2021年7月から始動したこと、が挙げられる。
  4. 中国の気候変動対応政策は、2030年のカーボンピークアウトから2060年のカーボンニュートラルまでの30年間に、トップダウンで、各目標年よりも前倒しで進めようとしていることが特徴である。その実現のためには、グリーンボンドの資金使途比率の改善や、中国人民銀行による金融機関向け資金供給制度の制度設計上の工夫、排出権取引市場への企業以外の機関投資家の導入などの課題にも並行して取り組んでいく必要があろう。中国のグリーンファイナンスに関するルール作りや支援制度は、スピード感も含め、日本の関係者への示唆が多いと考えられる。