特集1:インパクト金融の潮流

社会的インパクトに焦点を当てるソーシャル・バンク
-トリオドス銀行の事例に学ぶ-

小立 敬

要約

  1. 近年、持続可能な開発目標(SDGs)や環境・社会・ガバナンス(ESG)への関心が高まっていることに加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが継続している状況で、社会的インパクトや環境インパクトに焦点を当てた銀行または銀行業務としてソーシャル・バンクあるいはソーシャル・バンキングが世界的に注目されるようになってきている。
  2. ソーシャル・バンクは依拠する価値観が多様であり、ビジネスモデルも様々であるため、一般的に確立された定義はないが、ソーシャル・バンクに共通する要素として「利益・人々・地球」というトリプル・ボトム・ラインの下、利益の獲得に加えて社会への責任が重視されることが挙げられる。換言すれば、ソーシャル・バンクでは、リスク・リターンに加えてインパクトがより重視されることになる。
  3. ソーシャル・バンクの代表格であるオランダのトリオドス銀行を例にとると、同行は、環境セクター、社会的セクターおよび文化セクターに対する持続可能な投資(融資を含む)をビジネスの中心に位置づけている。また、資産運用ビジネスではインパクト・ファンド等を提供している。さらに、従来型投融資では資金調達が難しいソーシャル・ベンチャーに対しては、インパクト優先の考え方の下で寄付と融資を組み合わせたブレンド・ファイナンスを提供している。
  4. 日本でもSDGsやESGへの関心が高まる中で、日本の金融機関にはそれらに対する取組みが必須要件となりつつあり、今後、日本の金融機関がソーシャル・バンキングをビジネスモデルに取り込む可能性も考えられる。その際には、銀行業務を通じて社会的または環境に対するインパクトを重視する視点をどのように銀行の経営に取り込むかが鍵になろう。