特集2:サステナビリティ開示の進化

多様化するサステナビリティ報告の現状と課題
-IFRS財団の協議文書とSASBのIIRCとの統合-

板津 直孝

要約

  1. サステナビリティ報告の進展及び標準化を求める要望が増していく中で、国際財務報告基準財団(IFRS財団)は「サステナビリティ報告に関する市中協議文書」を公表し、2021年2月に、サステナビリティ報告の開示基準を策定するサステナビリティ基準審議会(SSB)を設立する可能性を示した。こうした動向に呼応するかのように、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)と国際統合報告評議会(IIRC)は、2つの組織をバリュー・レポーティング財団(VRF)へ統合し、IFRS財団の取組みに参加する用意があるなどの意向を公表した。
  2. サステナビリティ報告については、複数の開示基準等が混在している。想定する情報利用者と開示基準等の設計思想に違いがあり、比較可能で一貫したサステナビリティ報告の要望の高まりと緊急性への対応が課題となっている。企業に対する気候関連情報の法定開示義務や、中央銀行及び健全性規制当局による気候関連リスクのミクロプルーデンス政策への統合などが国際的に進められており、ESG(環境・社会・ガバナンス)要因の中でも、気候関連のリスクに対するサステナビリティ報告基準の開発が、最も切迫した課題となっている。SSBがSASBやIIRCなどの既存の基準等設定機関とも協力し、情報利用者として投資家を想定し、気候関連情報開示に優先して焦点を当てることは、現時点で期待されるサステナビリティ報告の方向性であると推察される。
  3. 気候関連のリスクを含むサステナビリティ情報の重要性が増すにつれ、非財務情報の開示内容に関する、信頼性の確保がより一層求められる。その観点では、サステナビリティ報告における監査法人等による第三者保証が、ESG格付機関による企業評価やESG指標への採用に影響を及ぼし始めている。SSBによるサステナビリティ報告の開示基準の策定とともに、新たなサステナビリティ報告に関する監査基準の策定動向も、今後、見逃すことができない。