特集2:サステナビリティ開示の進化

非財務情報開示を拡充する監査報告改革
-KAM(監査上の主要な検討事項)導入への期待-

板津 直孝

要約

  1. 無形資産投資やESG(環境・社会・ガバナンス)投資の国際的な拡大などを背景に、投資家の投資の意思決定には、財務情報と併せて評価するための非財務情報の充実に加え、監査意見に至るまでの監査の過程に関する情報が不可欠となってきている。非財務情報を含む企業情報のより充実した開示の促進に対応して、2つの監査報告の改革が、注目されている。
  2. ひとつは、財務諸表監査と非財務情報との関係及び非財務情報に対して監査人に求められる役割についての見直しであり、もうひとつは、2021年3月期から導入される「監査上の主要な検討事項(KAM)」である。KAMとは、財務諸表監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、監査人が特に重要であると判断した事項であり、監査報告書に記載が求められる。投資家の財務諸表への理解の深化と投資先企業との建設的な対話の促進が期待され、KAMの記載は、従来の監査報告の枠組みを大きく変えるものとして、機関投資家の注目度が高い。欧州やアジアの主要国において導入が先行しており、シンガポールにおけるKAM導入初年度の調査報告書では、KAMの有用性が投資家から評価されている。
  3. 近年、日本企業による大型合併・買収(M&A)の増加とともにのれんの金額も多額になっている。ある日突然、巨額なのれんの減損の報道がされ、株価が急落するような、投資家が最も懸念する不測の事態が、KAMの記載によって避けられる可能性がある。のれんの減損処理の要否の検討がKAMとして記載された場合は、翌四半期以降において、減損計上の可能性がある重要なのれんの存在が明らかになる。監査報告の改革により、経営者、監査役等、監査人の三者が積極的に関わることで、重要なリスクや見積りの不確実性を内在した事項を企業から引き出すことに繋がる。非財務情報を含む情報開示の充実と監査報告改革による相乗効果は、金融資本市場における企業と投資家との建設的な対話をますます促進させると言えよう。