特別寄稿

信用格付におけるESG要素の透明化
-ESGに起因する格付アクション-

野村證券IBビジネス開発部 (野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員) 今川 玄

要約

  1. 信用格付における環境・社会・ガバナンス(ESG)要素の透明性を高める動きが加速している。Moody'sが2020年12月に信用格付におけるESG評価の手法を大きく見直したのに続き、S&Pは2021年5月に信用格付におけるESG原則(案)を公表した。グローバルに事業展開する格付大手2社が信用格付における包括的なESG評価手法を公表する背景には、新型コロナウイルス感染症問題を通じて急速に拡大しているサステナブル投資市場からの要請や欧州に代表されるような監督当局によるESG関連開示規制を強化する動きがあるとみられる。
  2. 本稿では、2021年5月にS&Pが公表した「信用格付けにおけるESGの原則(案)」を中心に考察する。S&Pはこの新たな格付基準はESG要素の信用格付への影響をより分かりやすく説明するためのものであり、同基準が導入されたとしても既存の格付に影響はないとしている。一方、ESG要素が企業・金融機関の収益・財務に与える影響が拡大する方向にあるなかで、同要素が信用力に影響を与える過程と程度の「見える化」が進展することは、債券を中心としたクレジット投資家等によるクレジット評価におけるESG要因への認識の深化や分析の向上に資する可能性がある。その結果ESG要素が企業の負債を中心とした資金調達に及ぼす影響がより高まっていくことを通じて、ESG要素の信用力への影響がさらに高まるといった循環も想定される。
  3. S&Pは上記ESG原則案の公表に先立って、ESG要素に起因した産業リスクの見直しを実施、これに伴って世界の大手石油・ガス会社の多くが一斉格下げとなった。ESGによって格付会社から見た実態的なクレジットが大きく変動することを示した格付アクションであり、S&Pのみならず他の格付会社の動向も含めて注視していきたい。