特集2:アジアにおけるサステナブルファイナンスの進展

シンガポールにおけるサステナブルファイナンス
-公的部門主導の発展への期待-

北野 陽平

要約

  1. シンガポール政府は2021年2月、2050年以降のカーボンニュートラルへの移行に向けて、2030年までの包括的な環境行動計画を公表した。これに先立って、シンガポール金融管理局(MAS)は2019年11月、アジアを代表するグリーンファイナンス・センターになる目標を示し、環境リスクに対する金融システムの強靭性向上やグリーンファイナンス・ソリューションの開発等を重点戦略として挙げた。
  2. MASは2020年12月、国内金融機関の環境リスクへの強靭性向上等を目的として、銀行・保険会社・資産運用会社向けの環境リスク管理ガイドラインを公表した。また、MASは、国内金融機関に対して、国際基準に沿った気候関連情報開示を促進するため、2021年内にロードマップ案を公表し、意見募集を実施する予定である。
  3. MASは、グリーンファイナンス関連の金融商品の拡充も必要と考え、2017年以降グリーンボンド等の発行やグリーンローン等の提供を促進するための補助金スキームを導入してきた。また、MASは2021年6月、グリーンファンドの普及促進及び気候変動に強靭な外貨準備の運用を目的として、5社の資産運用会社に計18億米ドルの運用を委託することを発表した。
  4. MASが招集した金融業界主導の作業部会であるグリーンファイナンス業界タスクフォース(GFIT)は2021年1月、国内に拠点を置く金融機関が「グリーンな活動」を特定・分類するためのタクソノミー案を公表した。同タクソノミー案では、環境面で持続可能と判断するための基準、重点セクター、環境目的の充足度合いを示す信号機方式等が提案された。
  5. シンガポール取引所(SGX)は2021年5月、DBS銀行、スタンダードチャータード銀行、テマセク・ホールディングスとの合弁事業として、カーボンクレジットの取引機会を提供する国際的なカーボン取引所を2021年末までに開始することを発表した。今後、シンガポールでは、公的部門主導の様々な取り組みを通じて、サステナブルファイナンスの発展が期待される。