時流

環境政策とエンゲージメント

慶應義塾大学総合政策学部教授、Federated Hermes EOS上級顧問 白井 さゆり

要約

2020年の世界平均気温は2016年と並ぶ観測史上最高となり、産業革命前と比べ1.2℃上昇したことも明らかになった。世界各国で極端な自然災害が頻発し多額の損害が生じた。地球温暖化は、ESG投資の主な担い手である機関投資家にとって最重要課題だ。背景には、2015年の「国連気候変動枠組条約締約国会議」で、「世界平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」というパリ協定が採択されたことがある。加えて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年に「1.5℃特別報告書」の中で、現在の温暖化の進行速度では2030~2050年に1.5℃に達する可能性があり、世界平均気温を1.5℃上昇に抑制するには二酸化炭素(CO2)排出量が2030年までに45%削減され2050年にネットゼロにする必要があると科学的に示している。さらに、民間主導の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年に企業に対する気候変動の情報開示に関する提言を公表したことで、今後多くの上場企業は同提言にもとづく情報開示が要請されていくとみられる。先行する英国では上場企業等への適用が今年から始まった。CO2を含む温室効果ガス(GHG)排出量を抑制するには輸送・電力・生産などあらゆる面での変革と政府・企業・消費者の行動変容が不可欠だ。本稿では、気候変動に関する世界の動向とエンゲージメントの役割について最近の動向を解説したい。