特別寄稿

ESGと信用格付
-ESG要素が信用力評価に与える影響-

野村證券IBビジネス開発部
(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員)
今川 玄

要約

  1. 信用格付会社が格付における環境、社会、ガバナンス(ESG)評価について発信を急速に増やしている。国連責任投資原則(PRI)が公表した格付声明、債券・クレジット投資におけるESG要素の織り込みの進展、新型コロナウイルス感染症禍の下での社会(S)の視点の広まりなどが背景にある。
  2. グローバルに展開する格付会社は、ESG評価機関としての側面も併せ持つ。S&P、Moody'sは豊富な資金力を背景に、ESG評価機関や関連会社を相次ぎ買収し、ESG関連事業を新たな成長ドライバーとして位置付けている。ESG評価と格付におけるESG要素の考慮は、格付会社にとってはシナジーが期待できる半面、両者の境界が曖昧になることで外部からの格付評価の検証が難しくなるリスクも孕む。
  3. 一方、格付会社による格付におけるESG評価手法の透明性を高める取り組みも進み始めている。Moody'sは格付におけるESG評価手法を2020年12月に改定し、E・S・G各要素の発行体信用力への影響をスコア化するとともに、ESG全体の要素が現行の格付にどの程度影響しているかについてもスコアによって示そうとしている。
  4. S&Pも従来の格付手法のなかでESG要素が影響する格付プロセスの項目を提示するとともに、個別発行体の信用力等に関する情報発信を通じてESG評価の「見える化」を進めようとしている。
  5. 信用格付におけるESG評価は信用力を構成する一要素であり、債務償還確実性の評価とは切り離せない関係にある。資本市場のインフラである信用格付におけるESG評価が投資判断にどのように影響するか否か、ESG評価機関の格付・スコアとの対比でどう位置付けられるのか、Moody's、S&P等のESG評価機関としての動向と併せて注視していきたい。