特集1:高まるESG評価への注目

サステナビリティ指標を取り入れた業績連動報酬の課題

板津 直孝

要約

  1. 持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、近年、業績連動報酬に、ESG(環境・社会・ガバナンス)要因を考慮したサステナビリティ指標を取り入れる企業の動きが広がり始めている。しかし、どのようなESG要因が自社の財務的価値や持続可能性に重要な影響を与えるのかを見極めることは難しく、多くの企業で課題となっている。
  2. 米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)では、ある分野の企業には類似した特性とESGへのエクスポージャーがある点に着目し、重要性という評価軸を採用して、業種ごとに候補となる重要なESG要因を公表している。企業が中期経営計画にESG要因をリンクさせ、重要業績評価指標(KPI)に取り入れるべきサステナビリティ指標を選定する上で、SASBスタンダードは有用であると言える。
  3. サステナビリティ指標選定が困難であることは、法人税法上の課題に繋がっている。法人税法上、役員給与については、適正な課税の実現の観点で、恣意性を排除することが不可欠であることなどから、サステナビリティ指標に連動する役員給与部分は、現行法では原則として損金不算入となる。したがって、財務指標に加え、非財務指標であるサステナビリティ指標を業績連動報酬に取り入れるには、一定の配慮が必要になる。今後の税制改正で、サステナビリティ指標連動部分の損金性について、俎上に載ることが期待される。
  4. サステナビリティ指標の採用に当たって、法定開示書類上での課題となるのが、企業が識別した重要なESG要因を、いかにして情報開示すべきかである。企業に対する機関投資家の理解が深まり、中長期的な企業価値向上に向けた機関投資家と企業との建設的な対話が促進されれば、同指標の採用がより実効性を伴うものになっていくと言えよう。