特集2:環境面の新機軸

新型コロナウイルス感染症問題下で進展するグリーンリカバリーとトランジション・ファイナンス

江夏 あかね

要約

  1. 新型コロナウイルス感染症が世界的に甚大な影響を及ぼす中でも、地球温暖化対策の重要性が再認識され、グリーンリカバリーといった新たな概念が世界に浸透した。低炭素化・脱炭素化を踏まえた経済社会への移行(トランジション)に向けたファイナンスに関しても、国際資本市場協会(ICMA)による2020年12月のクライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブックの公表を含めて進展が見られる。
  2. トランジション・ファイナンスをめぐって、ICMA、気候債券イニシアティブ(CBI)/クレディ・スイス、外部評価機関等が示した考え方は、信頼性を高めるべく、主に(1)発行体そのもののトランジション戦略にしっかり織り込まれ、コミットメントのみならず実際のアクションが伴っているか、(2)科学的根拠に基づき、確実なトランジションが促されるか、といった点に着目する傾向が見られる。
  3. グリーンボンド原則(GBP)等の金融市場に幅広く認知されている原則・ガイドラインを公表しているICMAがハンドブックを公表したこと等を契機に、多くの発行体がトランジションボンド等の資金調達に取り組み、トランジション・ファイナンスに関するコンセンサスが世界の金融市場で形成される可能性がある。
  4. 発行体が自身のトランジション戦略を市場に知らしめる効果的な手段として、トランジションボンドによる資金調達を選択するケースが増える一方、事例が蓄積してくれば、投資家がより信頼性が高く、かつ実効性のあるトランジション活動に取り組む発行体をより厳格に選別するシナリオが顕在化することも考え得る。