金融・証券規制

シンガポールにおける金融人材の育成・開発の強化

北野 陽平

要約

  1. アジアを代表する国際金融センターの1つであるシンガポールは近年、金融セクターの競争力向上を目的として、同セクターの人材育成・開発を強化している。そこでは、自国民の職業能力向上を支援する国家的運動であるスキルズフューチャー(SkillsFuture)が重要な役割を担っている。例えば、スキルズフューチャーの一環として、金融セクターの各業務で必要なスキルやスキル向上プログラム等の情報を提供する枠組みが2019年に導入された。
  2. シンガポールの金融セクターでは、データ分析と自動化(オートメーション)による業務変革を踏まえて、テクノロジー活用が重視されている。そうした中、人工知能やサイバーセキュリティ等のテクノロジー分野の雇用機会を促進するプログラムが2019年に開始された。また、シンガポール金融管理局(MAS)、シンガポール国立研究財団、シンガポール国立大学により、デジタル金融人材の育成・開発を目的とした新たな教育・研究機関が2021年に設立された。
  3. MASは、サステナブルファイナンスも重点分野と位置付けており、同分野の研究や人材育成・開発を担う中核的研究拠点の設立を支援している。これまでに、シンガポール・グリーン・ファイナンス・センターやサステナブル・アンド・グリーン・ファイナンス・インスティチュート等が設立された。また、MASは2022年2月、金融機関の職員がサステナブルファイナンス分野で求められるスキルとコンピテンシーを特定し公表した。
  4. 足元では、MASは2022年9月15日に公表した2025年までの金融サービス産業変革マップにおいて、金融セクターの人材育成・開発を目的として、計4億シンガポールドル(2022年10月10日の為替レートで約406億円)の補助金を供与する新たなプログラムの開始を明らかにした。今後、シンガポールが、自国民の人材育成・開発の強化と高度な外国人材の誘致を成功させ、国際金融センターとしての地位向上につなげることができるか注目したい。