アセットマネジメント

拡大するインドのプライベート・エクイティ市場
-制度整備とスタートアップ企業支援策を中心に-

北野 陽平

要約

  1. インドでは、非上場企業を主な投資対象とするプライベート・エクイティ(PE)投資が拡大している。PE及びベンチャー・キャピタル(VC)の業界団体によると、PE・VC投資額は2015年の176億米ドルから2021年には628億米ドルへと3.6倍に増加した。セクター別では、情報技術(IT)及びIT利用型サービスが最も高い割合を占めている。
  2. インドのPE・VC市場では、国内で設立されたPE・VCファンドが「オルタナティブ投資ファンド(AIF)」としてインド証券取引委員会(SEBI)により包括的に規制されており、重要な役割を担っている。また、外国投資家も大きな存在感を有しており、SEBIに登録された「外国ベンチャー・キャピタル投資家」は右肩上がりに増加している。
  3. インドにおけるPE・VC投資拡大の背景には、革新的な製品・サービスの開発に取り組むスタートアップ企業の急速な増加がある。2022年5月時点で6.9万社超となり、米国と中国に次いで世界で3番目に多い。増加の要因として、インド政府が2016年に発表した「スタートアップ・インディア」という取り組みが挙げられ、スタートアップ企業の所得税を3年間免除する措置やAIFを投資対象としたファンド・オブ・ファンズの設立等が行われてきた。
  4. インドでは、企業価値評価額が10億米ドル以上のスタートアップ企業であるユニコーン企業も増加傾向にあり、2022年5月時点で計100社に達した。インドのPE・VC市場では新規株式公開(IPO)がエグジット額の3割を占める中、IPO予備軍となり得るユニコーン企業の増加は、より多くのPE・VC投資家の参加を促す可能性がある。
  5. インドのPE・VC市場を巡る今後の注目点としては、(1)環境分野におけるPE・VC投資機会の拡大、(2)国内富裕層によるPE・VC投資の拡大、が挙げられよう。