時流

サステナブルファイナンスの現在地

高崎経済大学 学長 水口 剛

要約

「テーマを絞って書くように」。卒業論文を書く学生には、まずそう伝える。テーマを広げ過ぎれば深い分析は難しく、話が拡散する。自身の専門から外れる可能性も高まる。だが、テーマを絞ることの弊害もある。全体観をつかみにくくなることである。環境・社会・ガバナンス(ESG)債、インパクト投資、非財務情報開示などを個別に取り上げると、いずれも進展著しく見える。一方で防衛産業への投資や化石燃料への回帰、ウイグルの人権問題などでESG投資は行き詰っているとの指摘もある。では社会は、全体としてサステナブルな方向に進んでいるのだろうか。その問いに答える測定可能な指標は世界の二酸化炭素(CO2)排出量や所得格差の推移などとなろうが、それだけでは社会の構造的な変化は、相変わらず見えにくい。そこで本稿では「時流」というタイトルにちなんで、あえてテーマを広げ、社会の大きな流れを考えてみたい。