特別寄稿

見えない価値を可視化する
-第5回「サステナビリティ経営の可視化」-

野村インベスター・リレーションズ(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員)佐原 珠美

要約

  1. 米経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルがステークホルダー資本主義を提唱してから約3年が経った。この間、企業経営におけるマテリアリティ(重要課題を特定するための尺度)についての考え方が変化している。環境・社会が企業財務に与える影響を重視する考え方に加え、事業活動が環境・社会に与える影響も範囲に入れようとする考え方にも注目が集まっている。
  2. 非財務情報開示基準の開発が本格化している。これまで複数の機関が、マテリアリティに関する考え方や、原則主義、細則主義等についての相違がある中で基準を開発してきた。2021年11月に国の国際会計基準財団(IFRS財団)が設立した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、これまでに開発された開示基準を踏まえ、国際的に統一した基準の策定を進めている。ただしすべてのテーマの基準が整備されるまでには相当の時間を要すると考えられ、それまで企業は各基準の相違を理解したうえで、目的に応じて活用することになる。
  3. サステナビリティ関連情報開示においては「事業活動が環境・社会に与える正・負の影響(外部性)」の把握が必要である。外部性の正確な把握は容易ではないが、最近の統合報告書には参考にできる先進的な事例も出てきている。
  4. 外部性の定量的な把握は、優先的に取り組むべき重要課題の明確化につながるため有効である。ただし企業は、外部性に関わる重要課題を開示するだけではなく、なぜそれを重視するのか、負の外部性による影響の低減、正の外部性による影響の増大に向けてどのようなリスク管理体制や経営体制を整えようとしているのか、その戦略的な取り組みを関連付けて説明することが求められる。
  5. 社会的インパクトを含めた「価値創造ストーリー」を策定することは、「環境・社会を重視することが本当に企業価値の向上につながるか」という声への答えとなり得る。ストーリーを通じてこれまで見えていなかった情報を可視化し、自社の存在意義(パーパス)や独自性をステークホルダーと共有することで経営上の課題への気づきにもつながる。ストーリーに共感を得たステークホルダーと共創することにより、さらなる成長に向けたサステナビリティ経営への道筋を描くきっかけとなるであろう。