特別寄稿

サイバーリスクと企業価値
-今、投資家に求められることは-

野村総合研究所 上級研究員 三井 千絵

要約

  1. サイバーリスクが企業価値に与える影響がここ数年高まっている。コロナ禍により事業や業務がオンライン化したことも、そのリスクを高めている。日常的に人材や予算を適切に割り当て、必要なトレーニングを行うといった取り組みはもとより、事業が停止し、社会や経済にダメージを与え、顧客データの流出などが起きた場合でも、経営者が適切に判断や対処を行えるよう常日ごろから備えることは、被害を最小限にし、企業価値の毀損の食い止めにつながるだろう。
  2. 投資家は、投資先企業の経営者がサイバーリスクに対してどのように取り組んでいるか、どのようなガバナンス体制を構築しているかを知り、必要に応じてその情報を投資先選定基準に用いたり、エンゲージメントを行うことで運用資産を守るべきといえる。米国や英国ではそのような投資家の判断を支えるための、企業開示の整備も始まっている。しかし先行して取り組む国のレギュレーターや、投資家団体等の関係者の中には「この問題は投資家も経営者もさらなる知識が必要」と感じている人もあるようだ。
  3. 今後、サイバーリスクをめぐる知識の共有や、対話のプラクティスをはじめとした市場全体での取り組みが求められると言える。