特集1:非財務情報開示の進展

TCFDの自然資本版TNFDのベータ版第二弾公表
-評価指標と情報開示指標を区別するアプローチ-

林 宏美

要約

  1. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、2022年6月28日、開示枠組みの試作版(ベータ版)第二弾(v0.2)を公表した。v0.2では、2022年3月15日に公表されたv0.1に盛り込まれた自然資本に関するコアとなる概念や情報開示に関する提言案等大半の項目に関して改訂はなかったものの、金融機関向けの自然関連リスクおよび機会を評価するツール(LEAP)において、評価プロセスへ入る前に適用範囲を決める上での項目が拡充された。また、指標と目標に対するアプローチ、自然への依存度およびインパクトに関するガイダンス、セクター・ガイダンス等が新たに公表された。
  2. 指標と目標に対するアプローチの注目点は、評価指標と情報開示指標を区別したことである。評価指標は、組織内で経営判断をするのに役立つ重要な材料の一つとしての活用が想定されており、TNFDで推奨される開示項目に含まれない。他方、外部への公表を想定した情報開示指標には、金融機関を含むすべての組織が開示を求められるコア指標と追加指標の2種類ある。なお、自然への依存度とインパクトを示す評価指標については、具体的な例示指標等も示された。
  3. TNFDは、経営判断や投資判断に利用しやすい、分かりやすい指標とすることと、科学に基づくアプローチとを一貫して追求しており、両者をどのレベルでバランスさせるか、難しい舵取りを迫られる。そもそもパリ協定に相当する自然資本対応のグローバルな目標設定が2022年12月まで延期されるなか、同目標を視野に入れることが必至であるTNFDによる、枠組みの策定に影響を及ぼすことにもなりかねない。最終的にTNFDの開示枠組みが2023年9月の公表へ漕ぎつけるか否か、今後の議論から目が離せない。