特集1:非財務情報開示の進展

企業サステナビリティ報告指令原案の暫定合意
-拡大するEU域外企業グループへの影響-

板津 直孝 

要約

  1. EU理事会と欧州議会は、2022年6月、「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」の原案について、暫定的な政治合意に達した。同原案は協議を踏まえ更新され、EU域外企業グループのEU域内での売上高が大きい場合、EU域内の子会社又は支店に、EU域外企業グループの連結ベースでのサステナビリティ報告を新たに要請している。
  2. CSRDが適用基準として位置付けている「EUサステナビリティ報告基準(ESRS)」は、ダブル・マテリアリティの原則を採用し、シングル・マテリアリティを概念とする、「IFRSサステナビリティ開示基準(IFRS SDS)」や米国証券取引委員会(SEC)が2022年3月に公表した「気候関連開示の強化と標準化を目的とした規則案」とは、サステナビリティ報告の基礎となる重要性の概念が異なる。
  3. したがってCSRDは、IFRS SDSやSECの規則案と必ずしも同等であるとは言えない。連結ベースでのサステナビリティ報告を求められるEU域外企業グループにとっては、親会社が所在する本国で要請されるサステナビリティ報告と、CSRDに基づく報告のダブルスタンダードが生じる可能性がある。
  4. 報告企業にとって、サステナビリティ関連の開示基準のグローバルなベースラインは、コスト、複雑さ、混乱を軽減するのに役立ち、情報の有用性、比較可能性を高めると同時に、より持続可能な成果の提供を含むサステナビリティ報告の基本的な目的を果たす。一貫性があり、比較可能で、信頼性が高く、保証可能なサステナビリティ報告に向けて、国際的な調整が期待される。