特集1:非財務情報開示の進展

金融機関の投資先からの温室効果ガス排出量の開示
-持続可能なポートフォリオの構築-

板津 直孝

要約

  1. 投資先の温室効果ガス(GHG)排出量は、一般的に、金融機関における総排出量の最大の構成要素になる。したがって、金融機関においては、投資先からのGHG排出量が、気候関連のリスクへのエクスポージャーを反映する重要な指標となる。
  2. 投資先のGHG排出量の測定には、IFRSサステナビリティ開示基準の公開草案などにおいて、「GHGプロトコル」の基準適用が示されている。金融機関が、株式投資に係るGHG排出リスクを投資先の事業活動に対する経済的利益に応じて割り当てるには、一般目的財務諸表と整合的なGHG排出量を連結するための基準を選択する必要がある。金融機関が投資先から発生するGHG排出量を測定する目的は、気候関連のリスクが中長期的に投資先の財務に及ぼす影響を把握し、金融機関のバランスシート上の炭素関連資産の集中度に関する理解を深めることにあるからである。
  3. 投資先のGHG排出量の測定では、データの入手可能性、推計値の測定方法及び多様な2次データの使用など、多くの課題に直面している。金融機関が、投資先から発生するGHG排出量を測定し、気候変動をポートフォリオのリスク要因に位置づけ、持続可能なポートフォリオを構築するには、投資先による排出量の開示の促進が重要になる。
  4. 日本では、本年度中に最終化予定のIFRSサステナビリティ開示基準を踏まえ、サステナビリティ基準委員会において、具体的開示内容の検討に取り掛かかることが期待されている。有価証券報告書での気候関連財務情報開示の要請は、金融機関が可能な限り推計値によらずに、投資先からGHG排出量を直接収集することを後押しすることになる。