ESG/SDGs

株式保有構造の変化が促す「企業と株主・投資家との新しい関係」構築

西山 賢吾

要約

  1. 我が国で行われているコーポレートガバナンス改革の成果の一つとして、株式保有構造の純投資家主体への移行が進んだことが挙げられる。いわゆる「安定株主」の保有比率は拒否権レベルである3分の1を下回るようになるとともに、株主総会における会社側上程議案の否決も特別なことではなくなった。
  2. こうした株式保有構造の変化は企業と株主・投資家間の新しい関係、すなわち「緊張感を孕んだ相互信頼関係」の構築を促す。企業は自分たちの考え、方向性を積極的に説明し、株主・投資家も自分たちの考えを企業側に丁寧に説明する。両者の対話、エンゲージメントの活発化により、相互理解と信頼関係を深めていくことが一段と重要になる。
  3. 「緊張感を孕んだ相互信頼関係」においては、株主・投資家から企業に対し積極的な働きかけを行う機会も増えるであろう。株式保有を通じた企業と株主・投資家との新しい関係の構築の一つの形として、長期視点の機関投資家などの「プロフェッショナル」な投資家が取締役会の構成者として入ることで、経営陣による戦略の策定や遂行を効果的に監督できるとするモデル「Board3.0」が注目される。ただし、「Board3.0」が想定する環境と我が国の現状は異なるため、実際に導入、運用していくにはなお工夫と検討が必要と考える。
  4. 上場企業は株式市場において「金融商品の一つ」であるという認識を持つことも必要であろう。金融・資本市場における他の金融商品との激しい競争の中で自社株式への投資魅力を持たせるためには、積極的なディスクロージャー、投資家を満足させるリターンの獲得、マルチステークホルダーへの対応などが重要である。