ESG/SDGs

欧州ESG市場を席巻する米国の金融事業者

磯部 昌吾

要約

  1. 欧州の環境・社会・ガバナンス(ESG)市場において、米国の金融事業者が高い市場シェアを持つ実態が明らかになっている。
  2. ESG投資の拡大に伴い重要性が増すESG評価サービスでは、欧州で利用される上位企業の多くを米国系ESG評価会社が占める。また、欧州連合(EU)が導入したサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)においても、ライト・グリーン/ダーク・グリーン・ファンドと呼ばれるSFDR第8、9条金融商品を提供する資産運用会社の上位に米国勢が入っている。
  3. 排出権取引では、EUの排出権取引制度を利用したデリバティブ取引所の最大手は、インターコンチネンタル取引所(ICE)である。加えて、排出権関連の世界最大の上場投資信託(ETF)は、ICE傘下のニューヨーク証券取引所に上場している。このほか、ボランタリーな炭素クレジットの取引では、CMEグループが欧州よりもむしろ米国で先物取引を広げている。
  4. ESGは、金融市場・経済の国際的なプレゼンスが低下する欧州にとって切り札ともいえるテーマである。そのため、欧州では膨大な量のESG規制が検討・導入されようとしている。もっとも、重要なのは、ルールの有無にかかわらず顧客のニーズに沿った商品・サービスを提供し適正な対価を得られるかであろう。従来から米国の金融事業者は幅広い分野で欧州域内の事業者と競争を繰り広げてきたが、ESGもその例外ではない。
  5. ESGに明確な定義はない。従って、グリーンウォッシュなどの誹りを受けるリスクを完全に避けることは難しいだろうが、その分、試行錯誤と実践が評価される局面でもある。米国の金融事業者が、資本市場の冷徹な論理に基づいて、どのように欧州においてESGビジネスを実践し、市場を席巻しているかを見ることは意義深いといえよう。