特集1:ネットゼロ達成に向けた展開

シンガポールで注目が高まるカーボンクレジット取引
-国際的な取引所ACXとCIXの動向を中心に-

北野 陽平

要約

  1. アジアを代表する国際金融センターの1つであるシンガポールでは昨今、カーボン(炭素)クレジット取引への注目が高まっている。同国では、初の国際的なカーボンクレジット取引所である「エアカーボン・エクスチェンジ(ACX)」が2019年に設立された。ACXにおいては、ブロックチェーン上でトークン化された6種類のカーボンクレジットが取引されている。
  2. シンガポール政府が、2030年までにアジアにおけるカーボンサービスのハブになるという目標を掲げる中、2021年5月に官民協力の下で「クライメート・インパクトX(CIX)」という国際的なカーボンクレジット取引所の設立が発表された。CIXでは当初、自然を活用した気候変動対策関連のプロジェクトから創出されるカーボンクレジットに焦点が当てられる。
  3. CIXでは、カーボンクレジットの質や取引の透明性が重視され、衛星モニタリング、機械学習、ブロックチェーン等のテクノロジーが活用される。CIXには3つのプラットフォームがあり、特定のプロジェクトから創出されるカーボンクレジットが取引される「プロジェクト・マーケットプレイス」が先行して2022年3月に本格的に始動した。
  4. シンガポールにおけるカーボンクレジット取引に関する今後の注目点として、(1)炭素税の代替としてのカーボンクレジットの利用、(2)カーボンクレジット市場参加者の増加、(3)東南アジア諸国連合(ASEAN)地域におけるカーボン取引のハブとしての役割向上、が挙げられよう。