特集1:非財務情報開示の展開

自然関連リスクと機会に関する情報開示指針TNFDのベータ版公表
-TCFDとの平仄を合わせた開示を目指した試作版第一弾-

林 宏美

要約

  1. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は2022年3月15日、開示枠組みの試作版第一弾となるベータ版(v0.1)を公表した。TNFDは、企業財務や運用パフォーマンスに影響を及ぼす自然関連財務情報開示の枠組み構築を目指しており、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の自然資本版として位置づけられる。TNFDに基づく情報開示が実現すれば、ESG(環境、社会、ガバナンス)の中の同じくE(環境)ファクターに分類され、コインの裏表のような密接な相互関係を有する気候変動と自然資本の損失を統合的に把握可能な環境が整えられる。
  2. TNFDの主な特徴は、企業における自然への依存に基づく財務面のマテリアリティ(重要課題)と、企業が自然に及ぼす環境面のマテリアリティという「ダブル・マテリアリティ」に基づく点、場所の概念を詳細に考慮する点である。自然関連リスクと機会の把握には、生物群系(バイオーム)や生態系に基づく地図上での詳細な分類(マッピング)が必要となる。
  3. v0.1では、主に(1)科学に基づく自然関連の概念や定義、(2)情報開示に関するTNFD提言案、(3)自然関連リスク・機会の評価アプローチ(LEAP)が提示された。また、短期、中期、長期の時間軸の定義は、企業の戦略や資本配分計画と連携させるべきとの見解が示された。
  4. 2023年9月に枠組みの最終化を目指すTNFDでは、今後、気候変動と自然の損失の両者に対処する統合的なアプローチ、比較可能なデータ収集・整備、基準指標の構築、シナリオ分析関連など、実用化に向けた議論が活況を呈するであろう。開示を行う企業や金融機関、開示情報を利用するユーザーの両者にとって活用しやすい統合的な枠組みが期待される。