金融・証券規制

米国における大手銀行の規制強化案
-バーゼルIII最終化の適用と大手地銀の破綻への対応-

小立 敬

要約

  1. FRBを含む連邦銀行当局は2023年7月に、総資産1,000億ドル以上の大手銀行を対象とする自己資本規制の規則改正案を明らかにした。規則改正案は、バーゼル銀行監督委員会によるバーゼルIII最終化の適用と、2023年3月のシリコンバレー・バンク(SVB)を含む大手地銀の破綻を受けたバイデン大統領の指示に従った大手地銀の規制強化という2つの狙いを有する。
  2. 米国のバーゼルIII最終化の特徴は、オペレーショナル・リスクだけでなく信用リスクについても内部モデル手法を廃止することである。また、バーゼルIII最終化ベースのアウトプット・フロアとともに米国独自の資本フロアが二重に課される。バーゼルIII最終化に伴い大手銀行に必要なコモンエクイティTier1(CET1)が16%も増えると推計され、特に米国G-SIBsへの影響が大きいとみられる。一方で、大手地銀の自己資本規制の強化としては、その他の包括利益累計額(AOCI)の自己資本への反映に加えて、ダブルギアリング規制の強化を含めバーゼルIIIベースの定義に合わせるべく自己資本が厳格化される。
  3. バイデン大統領の指示の下、2023年8月には大手地銀に破綻時の損失吸収力の確保を図る長期債務(LTD)に関する規則提案と、大手地銀の破綻処理計画の策定に関する規則提案も公表された。前者は、破綻処理の多様な選択肢の確保および預金保険基金(DIF)のコスト最小化が目的であり、後者は、大手地銀の破綻処理計画の強化と合理化を図るものである。
  4. SVBにおいてソーシャル・メディアの影響から高速の預金取り付けが発生するデジタル・バンクランという新たな脅威が生じたことを踏まえると、大手地銀に対するLTDの適用が非保険対象預金者の預金引出しを抑えられるか否かが鍵になる。デジタル・バンクランという銀行の存続可能性への新たな脅威が認識された今、日本も新たな課題に目を向ける必要があるのかもしれない。