金融機関経営

金利上昇局面での米銀保有債券の情報開示
-過去の金融危機での対応と未実現損失の対処-

板津 直孝

要約

  1. 米国連邦準備制度理事会(FRB)は、2022年3月、事実上のゼロ金利政策を解除した。2022年中の政策金利の引き上げは4.25ポイントとなり、米銀が保有する債券価額は大幅に下落した。本稿は企業会計という切り口で、米銀の保有債券の情報開示の動向を分析する。
  2. 米銀が保有する債券の未実現損失は、2022年12月には6,204億ドルとなった。預金流出による流動性リスクの高まりと金利の急上昇による投資損失を抱えた大手米銀は、投資ポートフォリオにおける債券の保有目的と未実現損失に対して、企業会計上、特徴的な開示を行った。
  3. 大手米銀の多くは、債券の取得時点では売却可能証券に分類し、各事業年度において売却可能証券の評価差額を自己資本に反映させていた。急激な金利上昇局面では、保有債券の未実現損失に対処するために、債券の分類の適正性を再評価し、一部を満期保有証券へ振り替えた。
  4. 他方、2023年5月に事実上の破綻となった米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)は、高水準の預貸率の状況で、過年度より保有債券の大半を満期保有証券として分類していた。同行は、流動性リスクに対して、保有債券の売却の可能性を想定していなかったことになる。FRBは、米地銀の破綻は、経営者が同行を流動性リスクと金利リスクにさらし、リスクをヘッジしなかったことにあるとした。
  5. 過去の金融危機で国際的に参照された米国会計基準では、保有債券に対して、厳格な債券の分類と分類の再評価を規定している。銀行において保有債券の分類と分類の再評価は、流動性リスクと金利リスクに対する重要なリスク管理手法のひとつとして位置付けられる。保有債券の未実現損失に起因する必要以上の信用不安を招かないためにも、監査報告書を含む銀行の情報開示が果たす役割は大きいと言える。