コーポレートファイナンス

個人投資家のニーズを踏まえて進展する種類株式の多様化
-社債型種類株式の発行とその意義-

橋口 達

要約

  1. 2023年6月20日、ソフトバンク株式会社の株主総会において、「社債型種類株式」の発行に向けた定款の一部変更が可決された。本件社債型種類株式は、議決権や配当などに関して普通株式の保有者に配慮しつつ、個人投資家を含めた幅広い投資家層のニーズに応えるべく高水準の利回りと限定的な値動き、一定程度の流動性を目指す設計がなされている。
  2. 近年、海外諸国では種類株式が積極的に活用されている。米国ではスタートアップ企業が迅速な経営判断を継続するために多議決権種類株式を発行しているのに対して、欧州では伝統的企業の創業家一族などが支配力を維持するために無議決権優先株を発行している例が多い。
  3. 一方、日本における近年の種類株式活用例においては、特に個人投資家による保有を念頭に置いた商品設計が意識されている。
  4. 日本の個人金融資産を見ると、その過半が現金・預金に滞留している。個人の資産運用を後押しするには、普通株式より限定的な値動きと、普通社債より高水準のインカムゲイン、ある程度の流動性といった特性を持つ金融商品は有力な選択肢となり得る。具体的には、個人が投資可能な種類株式を拡充することも検討されてよいのではないだろうか。
  5. 発行体にとっては、脱炭素化などの昨今の潮流の中で、資金調達の手法を多様化する重要性は今後ますます高まってくる可能性があり、種類株式の活用も候補になり得ると思われる。より多様な種類株式が存在することで、発行体と投資家の潜在的なニーズをつなぎ合わせられるかどうか、また国民の資産形成をさらに促せるかどうか、今後の展開が期待される。