コーポレートファイナンス

自社株買い規制を強化する米国の動向
-開示要件の拡大と自社株買い課税-

板津 直孝

要約

  1. 米国証券取引委員会(SEC)は、2023年5月、発行体の自社株買いに関連する既存の開示要件を拡大する改正案を採択し、米国内の発行体、外国民間発行体、上場クローズドエンド型ファンドに対して、自社株買いに関連する新たな情報開示を義務付けた。
  2. 自社株買いは、通常、株主価値の最大化に沿った形で採用されることが多いが、人為的に株価を上昇させる側面もあるため、長期的な株主価値の最大化以外の要因によって動機付けられている可能性もある。SECはこの点を考慮し、開示要件の拡大により、発行体と投資家の情報の非対称性の緩和を図った。
  3. 発行体の自社株買いの背後にある動機については、米国税制でも、自社株買いに対する課税という観点で議論が進められた。2022年8月の「インフレ抑制法」では、自社株買いに対する1%の課税が定められたが、気候変動対策や医療保険制度改革などの歳出に対する財源確保の色彩が強かったと言える。同法に基づき、米国の財務省及び内国歳入庁(IRS)は、2022年12月、自社株買い課税が適用される2023年1月1日を前に、暫定的なガイダンスを公表した。
  4. 自社株買い課税は、原則として、米国内の上場会社に関連して適用されるが、一定の場合、外国の上場会社の米国内の特定関連者に対しても適用される。2023年1月1日以降に自社株買いを実施する予定の日本企業においては、グループ資金の移動など、米国子会社から配当以外の方法で資金の提供を受ける取引を行っている場合、みなし規定の適用による自社株買い課税の影響に留意する必要がある。