アセットマネジメント

資産運用業の発展に貢献するアジアのアセットオーナー
-シンガポールGICとマレーシア従業員積立基金の事例-

北野 陽平

要約

  1. アジアでは、政府系ファンドや年金基金等のアセットオーナーが、国内外の資産運用業の発展に重要な役割を担っている。多様なアセットクラスへの国際分散投資や資産運用力の向上等により長期的に良好なリターンを獲得してきた主な機関として、シンガポール政府系ファンドのGICやマレーシアの年金基金である従業員積立基金(EPF)が挙げられる。
  2. 外貨準備を運用するGICは、強固な運用体制を構築・維持するため、長期的な成果に応じて相応の報酬を支払う枠組みにより、豊富な投資業務経験を有する経営陣を保持している。そうした経営陣の下で、資産運用の高い専門性を有する人材をグローバルに採用するとともに、新卒等の採用を通じて将来有望な若い人材を育成している。また、リターンの向上を目的として外部委託運用を行う中、シンガポールに拠点を置く既存の資産運用会社の事業拡大や外国からの新たな資産運用会社の誘致に貢献してきた。
  3. 加入者の積立金を長期安定運用するEPFは、リターンの向上及びリスク分散を目的としてこれまで外国資産への投資を拡大しており、プライベート・エクイティ投資も拡大する方針を示してきた。また、インハウス(自家運用)の資産運用力を補完するために外部委託運用を行っており、相応の運用委託手数料を支払うとともに、運用パフォーマンスが優れた資産運用会社を毎年表彰し、資産運用会社間の健全な競争を促進している。
  4. 日本では2023年6月、資産運用立国を実現する政府の方針が示された。その取り組みの一環として、アセットオーナーや資産運用会社のガバナンスや資産運用力等を向上させるための資産運用業の抜本的な改革が検討されている。GICとEPFの体制や取り組みは、日本にとって参考になる部分もあると思われる。