金融機関経営

米国SVBの破綻と銀行システムの不安定化
-背景の分析と初期的な論点整理-

小立 敬

要約

  1. 2023年3月10日にシリコンバレー・バンク(SVB)が破綻したことを契機として米地銀を中心に信用不安が拡大し、大西洋を越えてクレディ・スイスにまで飛び火する事態となっている。SVBの破綻は、預金の取付け騒ぎという典型的なバンクランであるが、異例の速さと規模で生じた。
  2. SVBの破綻の背景として、急速な金利上昇を受けて大きく拡大した債券ポートフォリオの金利リスクが指摘されている。また、破綻前日に総預金の2割を超える規模の預金の引出しが生じたが、預金の大半がスタートアップから受け入れた保険範囲を超える預金であり、安定性を欠く資金調達構造であった。さらに、ソーシャル・メディアを通じて経営不安の情報が拡散され、オンライン・バンキングを通じて預金が引き出されたことが急激なバンクランをもたらした。デジタル時代における現代的なバンクランと捉えることができる。
  3. 2008年のグローバル金融危機と異なり、現在の銀行システムの不安定化は信用不安の連鎖を伴ったシステミック・リスクのように窺われる。特にソーシャル・メディアが信用不安に影響している可能性がある。システミック・リスクを受けた異例の対応として、米国では全預金保護の措置が講じられた一方で、政策金利の引上げは継続された。また、クレディ・スイスが発行しているAT1債(その他Tier1債)は、UBSとの合併に際して完全に元本削減されることとなり、投資家に動揺をもたらしている。
  4. SVBの破綻に端を発する銀行システムの不安定化は、未だ継続している状況ではあるが、今後、金融機関の金利リスクや流動性リスクの管理に焦点が当てられることになるだろう。さらに現時点での初期的な教訓や課題として、銀行サービスや社会環境のデジタル化が銀行の健全性や金融の安定に与えるリスクを考慮して、金融機関のリスク管理や金融監督・規制にどのように反映させるかが重要な課題になるように思われる。