金融イノベーション

デジタルユーロ導入への歩みを進めるEU

淵田 康之

要約

  1. ECB(European Central Bank、欧州中央銀行)は、2021年10月からの2年間を調査フェーズ(investigation phase)と位置付け、デジタルユーロ、すなわちEU(欧州連合)版CBDC(Central Bank Digital Currency、中央銀行デジタル通貨)の検討を進めている。2023年秋までには、次のフェーズ(realization phase)へと歩みを進めるかどうかの判断が下される。
  2. ECB関係者の発言からは、デジタルユーロ実現への意欲がうかがえる。欧州委員会も、デジタルユーロに係る法制面の検討に着手した。
  3. 米国では、CBDC導入への反対論が目立つ。英国では、2023年2月、イングランド銀行と財務省が英国版CBDCであるデジタルポンドの案を公表したが、議会などからはCBDCの必要性に懐疑的な声も聞かれる。これに対しEUでは、ECBを中心に様々な関係者が連携しながらデジタルユーロの検討を着々と進めており、「政治的には後戻りできないところまできている」との見方もある。
  4. デジタルユーロを導入する場合、銀行預金からの過度な資金シフトが生じることを防ぐため、保有額上限など、各種の制約を設けることが提案されている。しかしこうした制約は、デジタルユーロの使い勝手を損ない、普及の妨げとなろう。他国の事例を見ても、CBDCの副作用よりも、そもそもCBDCが普及しない可能性が懸念されるところである。CBDCを成功裡に導入するためには、給与振込での利用や多様な仲介機関の参入を許容することがカギとなろう。