中国・アジア

米中上場摩擦の激化回避と中国企業の海外上場を巡る動き

関根 栄一

要約

  1. 2022年12月15日、米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)は、米国に上場している中国企業の監査状況を検査するための全面的なアクセス権を得たと発表した。同発表により、米国市場に上場する中国企業262社(2022年9月末時点)のうち、2020年に成立した外国企業説明責任法(HFCAA)に基づき、米国証券取引委員会(SEC)の上場廃止警告リストに計上されていた172社(2022年12月5日時点)の上場廃止リスクが条件付きながら回避され、約2年7カ月にわたった米中上場摩擦に伴う混乱がひとまず終了した。
  2. PCAOBによる上記アクセス権は、2022年8月26日、米国側ではPCAOB、中国側では中国証券監督管理委員会(証監会)及び中国財政部の三者が締結した会計監査面の協力覚書に基づくものである。PCAOBからは、米国上場の中国企業の監査状況を独自に調査できると認識されている。
  3. 米中上場摩擦の発端となったHFCAAとその最終規則の下では、中国企業と名指しはしていないものの、PCAOBによる監査を完全に実施できない企業を、SECが委員会指定企業に指定し、3年連続で指定された企業の証券は、米国の取引所での取引が禁止されることとなる。
  4. 米国当局の動きに対し、2021年7月、中国当局は、海外上場の中国企業が保有する個人情報等の海外流出を規制する動きを見せ始めた。また、同年12月、中国当局は、個人情報等の適切な管理を条件とした中国企業の海外上場審査制度の見直しに着手した。一方で、中国企業がストックコネクトを活用して欧州で資本調達する仕組みを整備するとともに、香港市場での中国企業の重複上場・新規上場を進めた。
  5. 2022年12月に証監会が開催した2023年の政策を決定する会議では、資本市場の開放に関し、米中間での会計監査面での協力体制をさらに整備し、中国企業の海外上場制度改革を着実に実施する方針を打ち出し、2023年2月に関連法令も公布された。中国企業の海外上場自体が今後どうなるのか、また海外上場できない場合に中国企業がどのように対応するのかが注視される。