特集1:金融システムへの不安再燃

クレディスイス救済買収の示唆
-金融規制・監督及びビジネスの観点から-

関田 智也

要約

  1. 2023年3月19日、UBSはクレディスイスの買収を発表した。本事案は、グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)の一角を占めていた大手銀行が買収されるに至った初のケースとなった。本稿では、金融市場の反応や各国の金融規制当局による対応・問題提起が一巡したと見られる中、本件買収を包括的にレビューし、示唆の抽出を図る。
  2. クレディスイスは、長期的には各種スキャンダルによる市場・顧客の信認低下、短期的には大口投資家の動き、米シリコンバレー銀行破綻の煽りを受けたことなどにより、救済買収に追い込まれた。
  3. 市場参加者から最も注目を集めたのは、クレディスイスが発行していたその他Tier1(AT1)債を無価値化するというスイス金融規制当局の決定であった。この決定が物議を醸したのは、ベイルインが行われる際の弁済順位を巡る国際合意から逸脱していたためである。
  4. 各国の金融規制当局は、銀行規制・監督の見直しに着手しており、大手銀行の流動性を巡る規制・監督が議論の中心となっている。一方、UBSの巨大化を巡る国内世論の懸念などを契機に、「大きすぎて潰せない(Too Big To Fail)」を巡る規制枠組みの再考を促す向きもある。
  5. 今後は、AT1債市場の動向、グローバル金融危機後の金融規制強化の見直しの動き、クレディスイス買収をビジネスの成長に繋げることを目指すUBSの経営戦略、の三点が主な注目点となろう。