特集2:中国規制改革の展開

2022年に急増した人民元建て貿易決済金額
-人民元国際化の進展状況-

関根 栄一

要約

  1. 2023年2月24日、中国人民銀行は、2022年通年の人民元建てクロスボーダー決済金額が42兆1,000億元となり、2009年7月に人民元建て貿易決済が解禁されて以来、最高の金額を記録したことを明らかにした。また、中国の対外決済金額に占める人民元の割合は49.0%に達し、過去に遡れる限りで最高の水準となった。
  2. 人民元建てクロスボーダー決済金額のうち、貨物(モノ)、サービス、収益及び経常移転から構成される人民元建て貿易決済金額は、2022年通年で10兆5,000億元と過去最高を記録し、前年比伸び率も32.0%増となった。
  3. 2022年の人民元建て貿易決済金額増加の要因としては、(1)景気対策の一環として企業の輸出支援や為替リスクヘッジのため人民元建て決済が奨励され規制緩和も行われたこと、(2)経済連携協定の枠組みの下でも人民元建て決済が奨励されたこと、(3)資源や食料の輸入で中国がバーゲニングパワーを高め人民元建て決済が進めやすくなったこと、が指摘できよう。
  4. 2022年以降、資本取引における人民元建て決済金額拡大に資するものとして、香港を経由した新たなコネクトである上場投資信託(ETF)コネクト及びスワップコネクトの創設が進められ、中国本土・香港間のストックコネクトの対象銘柄も拡大された。さらに、5年に1回行われる国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の構成通貨比率の見直しでは、人民元の比率が2015年の10.92%から2022年には12.28%に引き上げられた。
  5. 従来、人民元国際化は「継続しかつ慎重に進める」という方針であったが、2022年10月の中国共産党第20回党大会の政治報告では「秩序立てて推進する」という方針に変更された。戦略性が高まった新たな人民元国際化の方針の下で、2023年より上海外国為替市場の取引時間が延長された。また、ブラジルやアルゼンチンとの自国通貨建て決済の推進や、液化天然ガス(LNG)取引の人民元決済といった動きも出ており、いわゆる「脱ドル」の観点で、人民元が国際金融市場でどのように使われていくかも、新たな論点として注視される。