特集2:中国規制改革の展開

中国株式市場での発行登録制度改革の全面展開
-政府による株式発行審査制度からの転換-

関根 栄一

要約

  1. 2023年2月17日、中国証券監督管理委員会(証監会)は、株式発行登録制度の全株式市場への全面展開に関する制度・規則を公布し、即日施行した。同年4月10日には、同制度導入後、第1陣となる10社が上海・深圳証券取引所のメインボードに上場した。
  2. 株式発行登録制度とは、従来の証監会による審査・認可制度を転換し、証券取引所による審査を通じて証監会に登録し、株式発行を行う仕組みである。中国では、1990年12月に証券取引所が開業して以来、中央政府または証監会が直接、上場審査をしており、22年間に渡って続いてきた株式発行審査制度の転換となる。
  3. 株式発行登録制度は、メインボードでの全面展開に先立ち、新興市場(上海・科創板、深圳・創業板)で導入実験が行われてきた。同実験の結果を踏まえ、証券法等が改正され、各ボードの位置づけも明確にされ、情報開示を中心とした発行・上場手続き制度が整備された。また、発行体の法人形態では、種類株式発行企業の上場が科創板以外にも拡大された。併せて、財務及び会計面の審査基準は、従来の直近の財務指標ベースから、予想時価総額に基づく考え方に改められた。手続き面では、申請書類の証券取引所による受理日から数えて証監会による登録まで3カ月を越えてはならないという審査期間の上限も設けられた。
  4. 2023年4月のメインボードでの上場第1陣では、従来のIPO価格の上限慣行が撤廃された。登録制度の全面展開により、新株発行が常態化されることで、投資家の投資スタイルが変わり、今後、機関投資家の比率が高まる可能性もある。短期的には中国の経済再開(リオープン)の下での機動的なエクイティファイナンスの実現が発行体から期待されている。総じて、登録制度の導入は、市場と政府との関係を調整する動きの一環と言えよう。発行市場の規制緩和の一方、「上場会社監督管理条例」の制定等、上場会社に対する新たな監督体制についても、今後の整備動向が注目される。