金融・証券規制

ブレグジット後のロンドン国際金融センター
-金融業のEU移転と英国債急落の影響-

磯部 昌吾

要約

  1. 英国が欧州連合(EU)を離脱(ブレグジット)して3年が経過するところで、国際金融センターとしての英国は新たな局面を迎えようとしている。ブレグジットまでに必要とされた対応を行う段階はほぼ完了したと言えるが、これは第一幕に過ぎない。
  2. 現状では、英国の金融業は相応の規模を維持しているが、今も金融機関の国外移転を巡る動きは続いている。米国の大手銀行はEU現地法人の拡大を進めているが、それでもなお英国現地法人ではその数倍の規模の人員と資産を抱えている。他方で、英国の資産運用業界は海外資金を魅了し続けており、2021年末の運用資産は2016年末比で44%増加している。
  3. こうした中で、2022年12月には欧州委員会が、デリバティブ取引の清算の一部についてEUの清算機関(CCP)での清算を義務付ける法案を公表した。一方で、同月には英国財務省も「エディンバラ改革 」と題する独自の金融制度改革案を示した。これらの動きからは、英国とEUの規制分断が更に深まるブレグジットの第二幕が始まっていることが窺える。
  4. そのような矢先の2022年秋、英国は国債市場の急落に直面した。根本的な原因は政府の財政政策にあるわけだが、国債市場の混乱によって金融システムの安定性が損なわれるようであれば、国際金融センターとしての信頼性が揺らぎかねない。
  5. ブレグジットといっても、欧州の内側ばかりを向いてもいられない。欧州金融市場の国際的なプレゼンスは低下しており、英国とEUのいずれも海外からの評価なくして国際金融センターの地位は維持・形成できない。外国金融機関・人材に魅力的なビジネスを提供できるかが、今後のロンドン国際金融センターの行く末を決めるポイントになるといえるだろう。