金融・証券規制

EUの債券の取引情報インフラ「単一統合テープ」
-透明性向上による市場活性化の模索-

磯部 昌吾、門倉 朋美

要約

  1. 欧州連合(EU)が、債券の取引情報を集約して提供するシステム「単一統合テープ」の導入に踏み切ろうとしている。単一統合テープの導入は、EUの資本市場の活性化を図る「資本市場同盟」の取り組みの一環として位置づけられている。
  2. EUでは、債券市場の透明性を高めるべく、2018年から債券の取引情報を原則リアルタイムで公表することが義務付けられてきた。もっとも、個々の取引情報はばらばらに公表されているため、投資家に有益な情報となるよう取引情報を集約する組織の必要性が指摘されてきた。
  3. そこで、欧州委員会は2021年11月に公表した金融商品市場規則(MiFIR)の改正案において、EUレベルで債券価格や取引量等を集約して提供する単一統合テープの導入を提案した。また、これまで大口取引などに認めてきた公表期限の遅延措置の簡素化も盛り込んだ。
  4. MiFIR改正案を巡っては、債券市場の流動性が低い中で取引情報の公表タイミングを早めると、価格発見をしたプレーヤーが不利になり却って流動性の低下を招くとの懸念が出ている一方、タイムリーな価格情報を求める声もある。
  5. 重要なのは、単一統合テープが提供する情報を通じて、市場参加者が債券取引をより積極的に行うようになるかであろう。債券市場の活性化に向けて、EUが適切な取引情報インフラを上手く構築できるのか、引き続き注目といえよう。