特集1:自然資本の計測と開示の展開

自然関連財務情報の開示枠組の最終版を公表したTNFD

林 宏美

要約

  1. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、2023年9月18日、自然関連のリスクと機会を評価し、開示する枠組の最終版(v1.0)(以下TNFD提言)を公表した。TNFD提言の最大の特徴は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のアプローチを最大限取り入れている点である。
  2. TNFD提言で推奨される14項目には、TCFD提言に盛り込まれた全11項目が含まれている。自然資本特有の項目としてガバナンスCの項目に含まれた「ステークホルダー・エンゲージメント」では、エンゲージメント活動に加えて、組織の人権に関する方針や経営陣による監督についての記述が求められている。その対象は、影響を受けるステークホルダーの他に先住民や地域社会も含まれるなど、社会的側面を重視するTNFDのスタンスがうかがわれる。
  3. TNFDがTCFDに平仄を合わせている点に鑑み、既にTCFDに基づいた開示に取り組んでいる企業や金融機関等を中心にして、TNFDの開示に向けた自主的な取り組みがスムーズに進展する可能性が高い、と捉える向きもある。TNFDが2023年夏に世界の企業、金融機関等を対象に実施した調査では、TNFD提言に則した開示を2025会計年度から開始できるとの回答が全体の70%、2026会計年度以前に開始できるとの回答が同86%に達していた。
  4. TNFD提言に基づく開示の準備を進める決断を表明した企業や金融機関はTNFDアダプターとして認識される。TNFDアダプターのリストは2024年1月に開催予定の世界経済フォーラムで初めて公表される見込みであり、それ以降TNFDのウェブサイトで公表される。自然関連課題への取り組みにコミットしている企業か否かを判断する材料として投資家等に活用されるのであれば、リストの意義が大きくなる可能性もある。