時流

江戸時代の豪商に求められた社会的責任

神戸大学経済経営研究所 准教授 高槻 泰郎

要約

江戸時代の富裕な商人は、飢饉の際に困窮者に対して多額の寄付を行っていたことが知られている。しかもその寄付金額はランキングされ、刷り物として刊行もされていた。富裕であると見なされた家は、困窮者に対して寄付を行うのが当然、という規範意識が背後にあったのである。このことを端的に示す例が、大坂随一と目された豪商・加島屋久右衛門(廣岡家)である。金融商であった加島屋は、飢饉に際して困窮者を救う社会的責任があると見なされていた。また文化活動のパトロンとしての役割も期待されていた。加島屋はそれに応える中で、豪商としての地位を確立していったのである。