特別寄稿

ESGに起因する信用格付アクションの事例
-公的関与の影響はポジティブ・ネガティブ両様-

野村證券IBビジネス開発部(野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター 客員研究員)今川 玄

要約

  1. 外資系信用格付における環境・社会・ガバナンス(ESG)評価の浸透が進んでいる。Moody's、S&Pが信用格付におけるESG評価の手法を公表・適用してから約2年が経ち、評価対象は民間の事業会社、金融機関にとどまらず、ソブリン、政府系機関、国際機関、ストラクチャード・ファイナンスまで広がっている。
  2. S&Pが公表した2022年のESGに関連する格付アクションの集計では、新型コロナウイルス感染症(コロナ)禍の収束に伴いSの要因がほとんどを占めた2020年に比べて、E、Gの要因の割合が増える傾向にある。また前年比ではコロナ禍の収束の影響でネガティブなアクションが減少する一方、ポジティブなアクションが増加した。全体の格付アクションの件数については、2022年は前年比で28.5%減少した。
  3. ESG要因がE、Gにも広がり、Sの要因もコロナ関連の「健康と安全」から「人的資本」等にも多様化するなかで、実際の個別発行体の格付アクションに即してESG評価と格付の関係の検証を試みた。対象とした発行体の格付アクションに関連したESG要因は物理的リスク、移行リスク、ガバナンス構造、健康と安全、人的資本と多岐にわたる。各アクションもESGスコアとの連動が比較的分かりやすい形で示されており、ESG評価が格付評価の運用面にも浸透し、スキルが積み上げられていることが推察された。また公的関与の在り方によってESG評価がポジティブにもネガティブにもなるケースが確認できたのは興味深かった。