特集2:非財務情報開示の進展

ESGファンド等に対するSECの情報開示規制案
-ESGウォッシュの懸念と投資家保護-

板津 直孝

要約

  1. 投資家のESG(環境、社会、ガバナンス)投資戦略への関心が急速に高まっており、ESG関連の投資商品やアドバイザリーサービスに多額の資金が流入している。しかし、ファンドやアドバイザーによってESGの定義は大きく異なり、ESG戦略の一部として使用されるデータ、基準、投資戦略にも大きな違いがある。
  2. ESG戦略を標榜するファンドやアドバイザーが、投資商品やサービスにおけるESG要因の考慮を実態以上に誇張する(ESGウォッシュ)、といった事態が懸念されている。実際、アドバイザーが投資プロセスに組み込むESG要因を正確に情報開示していない、又はESG投資の方針や手順に不備があったとして、米国証券取引委員会(SEC)が制裁金を科す事例も発生している。
  3. SECは2022年5月、ファンド及び投資顧問会社によるESG要因の組み込みに関して、一貫性があり、比較可能で信頼できるESG情報を投資家に開示するための規則及び開示様式の改正案を公表した。SECは、同改正案に加えてファンドの名称規則の改正案も公表している。
  4. ファンド及び投資顧問会社がESG評価を適正に実施し実効性を高めるためには、投資先からのESG情報が欠かせない。SECは、2022年3月に気候関連開示の強化と標準化を目的とした規則案を公表したが、ESGウォッシュなどに関する規制においては、まずは、投資先のESG情報開示の充実に繋がる同規則案の最終化が求められよう。