特集2:非財務情報開示の進展

金融向け生物多様性共通会計を目指すPBAF基準
-期待されるTNFD枠組み等との相乗効果-

林 宏美

要約

  1. 自然資本や生態系サービスの礎をなす生物多様性が、企業の事業活動においても不可欠な要素との認識が近年急速に浸透している。こうしたなかで、事業活動が自然資本に及ぼすインパクトや依存度を踏まえ、自然資本のリスクおよび機会を評価・開示するためのツールの拡充や枠組みの構築を目指す取り組みが増えている。金融セクターが生物多様性にもたらすインパクトや依存度を算出し、評価する基準の標準化を目指す「金融向け生物多様性会計パートナーシップ(PBAF)」のイニシアティブもそれらの取り組みの一つである。
  2. PBAFが2022年6月に公表した「2022年版PBAF基準」では、投融資先企業が生物多様性に及ぼすインパクトの大きさを示す「生物多様性フットプリント」の算出プロセスが提示されている。PBAFの姉妹イニシアティブ「金融向け炭素会計パートナーシップ(PCAF)」では、金融機関が投融資を介して排出する温室効果ガス(GHG)排出量の算出基準が示されているが、PBAF基準はPCAFの生物多様性版である。
  3. PBAFは「2023年版PBAF基準」の作成も予定しており、その過程で自然への依存度の診断方法ならびに欧州連合(EU)の自然資本会計関連のアライン・プロジェクトにおける勧告を盛り込む方針を打ち出すなど、自然資本関連の評価・開示を標準化する流れへの期待も高まっている。こうした標準化は、自然資本の喪失に歯止めをかけ、回復に転じさせる「ネイチャーポジティブ」への資金シフトを目指す生物多様性ファンド等をはじめとした金融商品の組成を後押しすることにもつながる可能性があり、今後の展開が注目される。