ESG/SDGs

トランジション・ファイナンスの現状と脱炭素社会を生き抜くための企業金融

江夏 あかね

要約

  1. トランジション・ファイナンスとは、脱炭素社会への移行を進めるに当たって必要な資金を金融資本市場から調達することである。企業は、トランジション・ファイナンスも活用しながら、世界的な脱炭素化の流れを踏まえた最適事業ポートフォリオの構築、すなわち、座礁資産化の回避を行うことが求められる。
  2. トランジション・ファイナンスは、世界的には2010年代終盤から発展の歴史を刻み始め、2020年12月には国際資本市場協会(ICMA)が「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック」を公表した。日本では、トランジション・ファイナンスを支援・推進すべく、政府によりクライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針や業界別のロードマップ等の支援策が重層的に講じられているほか、日本銀行による「気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション」もトランジション・ファイナンスの浸透に寄与している。その結果、足元の世界のトランジションボンドの発行状況を見ると、日本の発行体による起債が中心になっている。
  3. 企業が脱炭素社会を生き抜くための企業金融であるトランジション・ファイナンスを効果的に活用する上での論点としては、(1)企業価値向上のツールとしての位置づけ、(2)質の確保、(3)ガバナンス強化、が挙げられる。
  4. トランジション・ファイナンスは、新しい資金調達手法だが、2050年のネットゼロ目標達成に向けた企業努力や、さらにその先の企業の成長を支えるための金融として、今後の発展が期待される。