ESG/SDGs

期待される健康経営の普及・深化とESG評価の向上
-米国におけるPDCAサイクル活用の好事例-

富永 健司

要約

  1. 企業経営において、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法である健康経営は、従業員のパフォーマンス向上、人材の定着率向上、組織の活性化、企業価値向上等の経営課題の解決に資するとの見方が示されている。また、こうした取り組みには環境・社会・ガバナンス(ESG)評価に対するポジティブな影響も期待できる。
  2. 企業が健康経営に取り組むにあたっては、健康経営に係る経営課題を踏まえて健康投資を実施すると共にその効果を把握しながら、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回していくことが重要と言える。米国における健康経営等に係るPDCAサイクル活用の事例を見ると、事前に目標・課題が明確化された上で、健康サービスを提供するベンダー等との提携を通じて包括的な健康改善の取り組みが進められている。
  3. 従業員の健康・安全に係る取り組みがESG評価及び社会分野の評価に影響を与えているかを検討するため、S&P500構成銘柄を対象に、米国のチャールズ・エヴェレット・クープ・ナショナル・ヘルス・アワードの受賞企業についてESG評価に関する分析を実施すると、ESG評価機関毎に結果にばらつきが見られた。本分析からは、ESG評価の改善を目指すにあたり、開示拡充と共に、ESGリスクの対応等の観点から実質的な効果をもたらすような健康経営の取り組みが重要であることが示唆された。
  4. PDCAサイクルの効果的な活用を通じて健康経営がさらに普及・深化し、ESG評価を含めた金融資本市場からの評価の向上に繋がっていくことが期待される。