ESG/SDGs

我が国上場企業の株式持ち合い比率(2021年度)
-保有合理性とともに資産効率性が一段と注目される-

西山 賢吾

要約

  1. 野村資本市場研究所で算出した2021年度の「株式持ち合い比率」は前年度比で3年連続低下し、過去最低水準を更新した。保有主体別にみると、上場事業法人、上場銀行は前年度比で低下、保険会社は横ばいであった。合理性の観点から保有株式の見直しが続いているのに加え、機関投資家の中で取締役選任議案に政策保有株式の保有量に関する基準を取り入れる動きが見えてきたことが、株式持ち合い解消、政策保有株式圧縮を促したと考えられる。
  2. 政策保有株式保有水準の議決権行使基準への反映については、2021年度頃より国内の機関投資家で行なわれるようになったが、2022年度以降も増えて、多数の機関投資家が同基準を採用するようになるであろう。数値基準については、「純資産対比で20%以上の政策保有株式の保有」が多くなると見られるが、純資産比と総資産比の併用や投下資本(純資産と有利子負債との和)比の利用、「保有の削減計画や実際の削減状況の勘案」も見られている。さらに、「保有水準が一定水準を上回り、かつROE(自己資本純利益率)が低迷している場合」という基準を採用する事例もあり、資産効率性への目配りもさらに進むと見込まれる。
  3. 企業にとって重要なのは、政策保有株式の保有合理性について定性的な説明だけに留まらず、不断に株式の保有意義や合理性の検証を行うこと、資産効率に影響を与えるような株式保有水準ではないことを定量的に投資家に示し、投資家の理解を求めていくことである。株式持ち合い比率は過去最低水準に達しているものの、機関投資家を中心に引き続き関心の高い株式持ち合い及び政策保有株式は、縮小が継続すると考える。