ESG/SDGs
インドの脱炭素化に向けた取り組みの強化
-グリーン国債発行と国内カーボン市場の創設を中心に-
北野 陽平
要約
- 14億人以上の人口を抱えるアジアの大国であるインドは近年、政府主導で脱炭素化に向けた取り組みを強化している。インドは、高い経済成長を遂げる中、エネルギー消費の拡大に伴って温室効果ガス排出量が増加傾向にあり、同排出量は中国と米国に次いで世界で3番目に多い。
- インドは、2030年までの国が決定する貢献(NDC)として、GDP当たり温室効果ガス排出量を2005年比45%削減し、再生可能エネルギーを中心とする非化石エネルギー発電設備容量が総発電設備容量に占める割合を50%まで上昇させる目標を掲げている。また、インドは、2070年までに温室効果ガス排出実質ゼロ(ネットゼロ)を目指している。
- インド政府は、グリーン・インフラプロジェクト向けの資金調達を目的として、2023年1月と2月に計1,600億ルピー(2023年5月16日時点の換算レートで約2,653億円)のグリーン国債を発行した。投資家の旺盛な需要を反映し、発行条件が同じ通常の債券より利回りが低くなる、いわゆるグリーニアムが発生した。グリーン国債は、政府の資金調達コストを低減させるのみならず、国内企業のグリーンボンド発行を後押しする可能性も考えられる。
- インド政府は、国内カーボン市場の創設に向けて準備を進めている。インドは、京都議定書の下で開始されたクリーン開発メカニズム(CDM)に参加してきたことに加えて、省エネルギー達成認証(PAT)スキームと再生可能エネルギー証書スキームという独自の取引制度を運用している。新たな国内カーボン市場は、PATスキームから移行されるコンプライアンス市場と自主的なカーボンクレジット取引が行われるオフセット市場から構成される。
- インドが今後、グリーンボンド市場や国内カーボン市場の整備を含む脱炭素化に向けた様々な取り組みの強化を通じて、ネットゼロ実現に向けた進捗を加速させることができるか注目したい。