特別寄稿

市場から評価されるESG開示とは

名古屋商科大学大学院マネジメント研究科 教授 大槻 奈那

要約

  1. 企業の非財務情報開示の重要性が高まり、各社の統合報告書の内容の充実化、差別化が進んでいる。本稿は、日本経済新聞社が主催する「第2回 日経統合報告書アワード」の審査内容を分析し、高評価の企業の特徴などをまとめた。
  2. 第一の特徴は、定量的な記述が適切に盛り込まれていることである。最高経営責任者(CEO)のメッセージは、戦略や将来像を語る部分でもあり定性的になりがちだが、高評価の企業では、夢に加えて定量面の記述も多く含まれていた。
  3. 第二に、響きのよい流行語を使うよりも、自分たちの言葉で記述しているものが総じて評価された印象だ。その言葉を使う意味などを、社内でじっくりと検討し、深く討議したことが、様々なところににじみ出ているためだろう。
  4. 第三に、時間軸がわかりやすいことだ。今回の統合報告書では、環境問題に関する定量分析や、将来の目標も整備した企業が多かったものの、その達成までの時間軸が明確でないケースも多くみられた点は残念だった。
  5. 日経統合評価アワードの評価ランキングとMSCIの環境・社会・ガバナンス(ESG)スコアには一定の相関がみられる。しかし、統合報告書アワードはまだ歴史が浅いため、高評価を受けた企業がその後どのような収益を上げているのかはまだ不明だ。今後の調査の課題として次回以降の評価者にゆだねたい。