特集1:非財務情報開示の展開

インパクト加重会計の進展と企業による価値向上に向けた挑戦

江夏 あかね

要約

  1. 世界では近年、インパクトを貨幣価値化して財務会計への取り込みを志向するインパクト加重会計の開発の取り組みが続くとともに、企業による同会計等に基づく開示事例が国内外で蓄積し始めている。
  2. インパクト加重会計は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のインパクト加重会計イニシアティブ(IWAI)も契機となり、バリュー・バランシング・アライアンス(VBA)によるインパクト・ステートメントやインパクトエコノミー財団(IEF)によるインパクト加重会計フレームワーク(IWAF)等の検討が進められている。同時に、主体間の連携も通じてインパクトの貨幣価値化の手法や開示の枠組み等について標準化を目指す動きが近年観察されている。
  3. 本稿では、VBAやIEFによる取り組みとともに、企業によるインパクト加重会計に基づく情報開示事例として、日本企業からは、エーザイと積水化学工業、海外企業からは、スペインのアクシオナ、ドイツのBASF及びオランダのABNアムロ、を取り上げた。現時点の企業の開示事例を見る限り、インパクト加重会計を経営判断に活用し、企業価値向上に結び付けたと示せる事例はほとんどないようである。企業にとってインパクト加重会計のプロセスは、財務会計への取り込みがゴールではなく、結果に基づきどのように価値を向上させるかに加え、投資家等のステークホルダーに価値向上の道筋を継続的に示していくことが重要と言える。
  4. インパクト加重会計を利活用する上での今後の主な論点としては、(1)開示主体による透明性の確保と利用者による適切な活用、(2)企業価値向上への結び付け、(3)成功事例の蓄積、が挙げられる。