特集2:アジアの移行金融の進展

脱炭素化への移行に向けた取り組みを強化するASEAN
-重要性が高まるトランジション・ファイナンス-

北野 陽平

要約

  1. ASEANでは近年、脱炭素化への移行に向けた取り組みが強化されている。化石燃料への依存度が高いASEANでは、再生可能エネルギーの利用は促進されているものの、エネルギー移行は道半ばである。ASEAN各国がエネルギー移行を通じて脱炭素化への移行を推進する上で、域内共通の基準の整備と環境改善活動のための資金調達の促進が重要と考えられる。
  2. 域内共通の基準に関して、ASEANタクソノミーの役割が高まっていくことが期待される。各国の経済活動はグリーン、アンバー、レッドのいずれかに分類され、アンバーはネットゼロに向けた道筋への移行段階と位置付けられる。2023年3月に公表されたASEANタクソノミー第2版では、石炭火力発電の段階的廃止に係る基準が示されている。
  3. 資金調達に関して、ASEANではグリーンボンドとサステナビリティボンドが発行の中心であるが、近年サステナビリティ・リンク・ボンドへの関心が徐々に高まりつつある。資金使途が限定されておらず、サステナビリティ目標の達成状況に応じて財務的・構造的特性が変化し得るサステナビリティ・リンク・ボンドは、一定の要件を満たす場合、トランジション・ファイナンスの一種となる。
  4. 国別では、アジアを代表する国際金融センターの1つであるシンガポールが、トランジション・ファイナンスの促進に向けた取り組みを強化している。シンガポール金融管理局は、2023年4月に公表したネットゼロに向けた金融行動計画の一環として、サステナブルボンド/ローン補助金制度の対象にトランジション・ボンド/ローンを追加した。
  5. ASEAN全体がトランジション・ファイナンスを促進していくためには、域外との連携強化も重要と考えられる。日本政府は2021年5月、アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)を表明し、ASEAN諸国を金融面及び技術面で支援する方針を打ち出した。今後、両地域間の連携のさらなる進展が注目される。