特集2:アジアの移行金融の進展

グリーンパンダ債とトランジションボンドの発展
-中国におけるサステナブルファイナンスの新たな潮流-

宋 良也

要約

  1. 2022年における中国国内のグリーンボンド発行額は、米国を超えて初めて世界1位となった。その中で、近年中国国外の発行体・投資家に注目されている取り組みとして、国外の発行体が中国本土で発行する「グリーンパンダ債」や、温室効果ガス(GHG)の排出量が多い伝統産業の低炭素・脱炭素社会への移行に向けた「トランジションボンド」が挙げられる。
  2. 中国では、グリーンパンダ債に特化した規則は制定されていない。そのため、国外の発行体が中国でグリーンパンダ債を発行する場合、パンダ債(国外の発行体が中国本土で発行する人民元建て債券)とグリーンボンドを発行するための二重審査を受ける必要がある。通常のパンダ債より、発行関連コストや手間を要することが想定される。
  3. 中国のトランジションボンド市場の規模は世界的にも大きいと言えるが、発行市場・資金使途が特定されるか否かで分類されており、全市場共通の規則は制定されていない。また、トランジションボンドの既存規則には、業種別のロードマップの策定が全国レベルで行われていないなど、市場の整備に向けた余地があると言える。
  4. 今後、当局がグリーンパンダ債市場の拡大を目指すためには、審査プロセスの簡素化や国内の証券取引所と海外の証券取引所の間の情報共有・相互取引のスキームの導入をさらに模索することが考えられる。トランジションボンドについても、全市場共通の法規制の制定や、トランジション関連の経済活動の「タクソノミー」を全国レベルで策定することが考えられる。グリーンパンダ債やトランジションボンドを含めた中国のサステナブルファイナンスの動きは、今後も注目に値する。