ESG/SDGs

自然災害リスクと金融の役割
-CATボンドの活用可能性を中心に-

富永 健司

要約

  1. 世界では自然災害に伴う経済被害が拡大している。過去約30年間の自然災害の発生状況を見ると、2011年頃までアジア各国やハイチの地震によって甚大な被害が発生していた。昨今では、米国のハリケーンやアジアの洪水等の大規模な風水害による経済被害が増加しており、自然災害リスクの多様化が進んでいる。
  2. 今後、気候変動によってさらなる激甚化が見込まれる風水害や想定される大規模地震等の観点から、自然災害リスクが拡大していくものと考えられる。世界の自然災害リスクを総合的に把握・分析する指標である世界リスク指標に基づくと、国・地域別では、日本を含むアジアの国々の自然災害リスクが世界的に見て高い水準となっている。
  3. 自然災害リスクに対応する上で、資本市場における代表的な金融商品である大災害債券(CATボンド)の発行状況を見ると、累積発行額の約6割を米国の自然災害を対象とするCATボンドが占めている。他方、アジアにおける自然災害リスクが高い水準にあることを踏まえれば、同地域におけるCATボンドの活用余地はまだあり得ると考えられる。
  4. CATボンドの活用においては、企業及び保険会社が保有する自然災害リスクの移転が活発化するかがカギとなる。自然災害リスクの移転を考える際、(1)企業等による自然災害関連の保険加入率向上、(2)企業によるCATボンドの活用、等が課題として挙げられる。
  5. 今後、資本市場の活用を通じて、日本を含むアジアにおける自然災害リスクへの対応が進展していくのか注目される。